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神戸家庭裁判所 昭和47年(家)2305号 審判 1973年5月28日

申立人 長原シノ(仮名)

事件本人 長原アキ(仮名)

主文

申立人の申立を却下する。

理由

申立人は「申立人を事件本人の扶養義務者に指定する」との審判を求め、申立の実情として「申立人は事件本人の姉(亡)長原サキの娘で、事件本人とは叔母姪の関係になる。事件本人は精神障害があるとして昭和四七年一二月一三日から○○サナトリウムに入院し、保護義務者が必要な状況にあるところ、同人には法定の保護義務者がないだけでなく、直系血族、兄弟姉妹もいない。ただ、姪として申立人ほか四名がいるので、長姉である申立人が扶養義務者となつたうえで、保護義務者となることを考慮したい。よつて、申立人を事件本人の扶養義務者に指定する旨の審判を求める」と述べた。

当裁判所が事実を取調べたところ、申立人本人の供述、家庭裁判所調査官岡本育代の調査報告書中橋本茂の供述部分、○○サナトリウムの回答書、戸籍謄本の各記載によると、申立にかかる事実が認められるのであるが、申立人ら姉妹五名の者と事件本人とは、これまでほとんど生活上の交渉がなく、ことに事件本人から格別の精神上、物質上の恩恵を受けたような事実は認められず、要するに、ただ、血縁の者であるという関係に過ぎないと認められる。申立人は、事件本人を病院に見舞つたり、同人が健康時委任していた不動産管理人との連絡に当つたりしており、今後もその意思に変りがないと認められるけれども、これは叔母と姪という親族間の情誼によるものであり、かつ、それに委ねておけばよいことであつて、事件本人が精神障害者であるとしてもこれを申立人を含む姪たちに法律上の扶養義務として負わせなければならないような特別の事情があるとは認められず、他にこれを認めるべき資料も存在しない。一方、事件本人は、昭和三八年以来入院と退院をくり返し、このたびの入院は七回目であつて、病気の進行、長期化が考えられるところ、同人は自宅のほか貸家を所有しており、その管理についても考慮する必要があること、申立人も事件本人について別途禁治産宣告と後見人選任の申立をしたことが認められるので、事件本人の保護は、その手続に譲るのが相当である。

以上の次第で申立人の本件申立は相当でないから却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂東治)

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